カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは?配色のポイントや役立つツールを紹介
2025.12.05
Webサイトをリニューアルする際、「デザイン性」や「使いやすさ」は重要な検討項目です。しかし、その「見やすさ」が、すべての人にとって同じであるとは限りません。
実は、色の見え方には個人差があります。日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人、日本全体では320万人以上が、一部の色の組み合わせを判別しにくい色覚特性を持っていると言われています(東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン)。 これは、決して他人事ではない数字です。
この記事では、そうした色の見え方の多様性に配慮し、より多くの人へ正確に情報を伝えるための「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」について、その重要性から具体的な実践方法まで、すぐに役立てられるポイントを分かりやすく解説します。
この記事で分かること
・カラーユニバーサルデザイン(CUD)の基本的な考え方
・なぜ今、CUDがビジネスにおいて重要なのか
・色覚の多様性と、タイプ別の見え方の違い
・明日から使える、配色の具体的な5つのポイント
・実践的な配色例と、すぐに使えるチェックツール
目次
カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは?
カラーユニバーサルデザイン(Color Universal Design、略してCUD)とは、個人の色覚(色の感じ方)の違いを問わず、すべての人に情報が正確に伝わるように、配色やデザインを工夫する考え方のことです。
これは単に「特定の人に配慮する」という話ではありません。高齢により色の見分けがつきにくくなった方や、様々な環境下でWebサイトを閲覧する人々を含め、より多くの人が快適に情報を得られることを目指す、利用者視点のデザインアプローチと言えます。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)は、CUDのポイントとして以下の3点を挙げています。(出典:CUDO)
- できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ。
- 色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする。
- 色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする。
つまり、デザインの美しさだけでなく、情報の「伝わりやすさ」を最優先に考え、誰もがストレスなく情報を理解できるWebサイトを目指すことが、カラーユニバーサルデザインの本質なのです。
なぜカラーユニバーサルデザインが必要なのか?
Webサイトがビジネスにおいて重要な役割を担う今、CUDへの配慮は、単なる「親切」から「必須」の要件へと変わりつつあります。なぜなら、配慮を欠いたデザインは、意図せず多くのユーザーを情報から遠ざけ、機会損失を生むリスクをはらんでいるからです。
より身近な「色覚の多様性」
前述の通り、色覚特性をもつ人の割合は日本人男性の20人に1人、女性の500人に1人で、 クラスに1〜2人はいる計算です。そう考えると、色覚特性が身近な存在に感じられるのではないでしょうか。
さらに、加齢による見え方の変化も無視できません。年齢を重ねると、目の水晶体が黄色みを帯びる「黄変」という現象が起こり、青系の色が認識しにくくなります。また、コントラストを感じる力も低下します。
Webサイトの訪問者に、こうした特性を持つ方が含まれている可能性は十分に考えられるため、CUDを意識したデザインが必要なのです。
色だけに頼った情報伝達のリスクとは?
もし、Webサイトが色だけで情報を伝えようとしている場合、色覚タイプによっては、その情報が正しく伝わらない可能性があります。例えば、以下のようなケースです。
・エラーメッセージを赤字で表示:赤色が暗く見える色覚タイプの人には、エラーメッセージが目立たず、見逃してしまう可能性があります。エラーメッセージでは赤色が使用されることが多いですが、カラーユニバーサルデザインを意識したサイト設計においては、注意が必要です。
・グラフを赤と緑で色分け:赤と緑の区別がつきにくい色覚タイプの人には、グラフのデータを正しく読み取ることができません。
- リンクテキストを周囲のテキストと同じ色で表示:リンクが色でしか識別できない場合、どこがクリックできるのか分からなくなります。
このような「伝わらない」デザインは、ユーザーにストレスを与えるだけでなく、企業にとっては機会損失にも繋がりかねません。だからこそ、カラーユニバーサルデザインの考え方が重要になるのです。
色覚タイプ別の見え方の違い
人間の色覚は、主に以下の5つに分類されます。色(赤、緑、青)を感じるための3種類のセンサー(L錐体、M錐体、S錐体)があり、このセンサーの働きの違いによって、色の感じ方が異なります。それぞれの特徴を理解することで、より適切な配色選択が可能になります。
C型 (Common)

P型 (Protanope)

D型 (Deuteranope)

T型 (Tritanope)

A型 (Acromatic)

(出典:CUDO)
これらの見え方の違いを理解することは、すべての人にとって分かりやすいデザインを考える上で不可欠です。単に「赤と緑を使わない」というだけでなく、明度や彩度の差、色以外の要素の活用など、多角的なアプローチが求められます。
カラーユニバーサルデザインで意識したい5つのポイント
では、具体的にどのような点に注意すれば、より多くの人に見やすいデザインを実現できるのでしょうか。ここでは、明日からでも実践できる5つのポイントをご紹介します。
1. 特定の色の組み合わせを避ける
色覚の多様性を考慮すると、特に避けるべき色の組み合わせがあります。「赤と緑」「緑と茶」「青と紫」「ピンクと水色」といった、色相が近い暖色同士や寒色同士の組み合わせは注意が必要です。対策としては、これらの色を隣接させて使わないことが基本です。どうしても使用する必要がある場合は、次に紹介する「明度・彩度の差」や「色以外の要素」を組み合わせる工夫が求められます。

2. 明るさや鮮やかさで差をつける
色覚の多様性を持つ方々は、色相(色味)の違いを識別するのが苦手な一方で、明度(明るさ)や彩度(鮮やかさ)の変化には敏感であるという特性があります。この特性を活かし、色の濃淡や鮮やかさで明確な差をつけることで、情報を伝えやすくすることができます。
例えば、同じ色相のバリエーションを使用する場合でも、「濃い青」と「薄い青」のように明度差をつけることで、区別しやすくなります。グラフなどで複数の要素を色分けする際には、単に色相を変えるだけでなく、明度や彩度にも差をつけることを意識しましょう。

3. コントラスト比を確保する
背景色と文字色のコントラスト比は、読みやすさを左右する重要な指標です。Webアクセシビリティの国際的なガイドラインであるWCAG 2.2 (Web Content Accessibility Guidelines) では、テキストと背景色のコントラスト比について具体的な基準が設けられています。これは、色覚の多様性を持つ方だけでなく、高齢者や弱視の方など、様々なユーザーにとって読みやすさを確保するために非常に重要です。
- 通常テキスト:4.5:1以上
- 大きなテキスト:3:1以上
これらの基準を満たすコントラスト比を確保することで、文字が背景に埋もれて見えにくくなることを防ぎ、誰もが快適に情報を読み取れるようになります。Webサイトのデザインツールやオンラインのコントラストチェッカーを活用して、常に適切なコントラスト比を維持するようにしましょう。
4. 色数を絞り、役割を明確に
Webサイト内で使用する色数は、むやみに増やさず、基本となるベースカラー、メインカラー、アクセントカラーの3色程度に絞り込むことが推奨されます。
色数が多すぎると、情報が煩雑になり、どこが重要なのかが伝わりにくくなります。これは、実はプロのデザイナーもよく用いる手法です。情報の優先順位を整理し、色の意味付けを統一する(ボタンは常にこの色、エラーメッセージはこの色など)ことで、すべてのユーザーにとって分かりやすいデザインになります。
5. 色以外の要素を活用する
色以外の要素を活用してデザインすることは、CUDにおいて最も重要なポイントです。色だけに頼らず、形・文字・アイコンなどを併用すれば、より多くの人に確実に情報を届けることができます。
- グラフ:色分けに加え、線種(実線・点線)を変える、模様をつける

- リンク:青色だけでなく、下線を併用する
- 通知:アイコンを添える(エラーに「×」、成功に「✓」など)
このような工夫で、たとえ色が識別しにくくても、ユーザーは情報を正確に理解できるようになります。
カラーユニバーサルデザインを取り入れた配色例
ここからは、実際のWebサイトや資料でカラーユニバーサルデザインをどのように取り入れるか、具体的な配色例を、良い例とNG例を比較しながら紹介します。各配色について、異なる色覚タイプでの見え方もシミュレーションしてみましょう。
Webサイトのボタン
Webサイトのボタンは、ユーザーのアクションを促す重要な要素です。色覚の多様性を持つ方にも分かりやすいボタンデザインを心がけましょう。
推奨例:オレンジ(#FF6B35)と青(#004E89)
この配色は、全ての色覚タイプで明確に区別できる組み合わせです。

オレンジは暖色系で注目を集めやすく、CTAボタンに最適です。青は信頼感を与え、補助的なボタンに適しています。明度差も十分で、グレースケールでも区別可能です。
NG例:赤(#FF0000)と緑(#00FF00)
一見すると補色で目立つ組み合わせですが、色覚の多様性を考慮すると問題があります。

P型・D型の人には、どちらも茶色系統に見え、区別が困難です。特に小さなボタンでは、違いがほとんど分からなくなります。
グラフや図解
データを示すグラフや図解は、視覚的に分かりやすい要素である反面、色覚の多様性を持つ方にとっては、色の使い方次第で最も情報が伝わりにくくなる可能性があります。そのため、グラフや図解をサイト内で使用する際には、配色やデザインを慎重に決めることが求められます。
推奨例:オレンジ(#F6AA00)、緑(#03AF7A)、水色(#4DC4FF)、茶色(#804000)
※CUD推奨配色セット20色から選択した実用的な組み合わせ例

色相・明度・彩度のバランスが取れており、どの色覚タイプでも4色を区別できます。さらに線グラフでは線種も変えることで、より確実な識別が可能になります。
NG例:類似色のグラデーション配色
赤から黄色へのグラデーション(#FF0000→#FF6600→#FFCC00→#FFFF00)は、美しく見えますが機能的ではありません。

P型・D型の人には全て黄褐色の濃淡に見え、データの区別が困難です。グラデーションを使う場合は、単色の明度変化(例:濃紺から水色)の方が識別しやすくなります。
ステータスを示す重要な通知
エラー発生やログイン成功など、Webサイト上の重要な通知は、ユーザーがサイトを迷わず利用するために、分かりやすく伝える必要があります。
推奨例:形状とセットでの色使い
- エラー:赤(#D32F2F)+「×」アイコン
- 警告:黄(#FFFF00)+「!」アイコン
- 成功:青(#1976D2)+「✓」アイコン

色だけでなくアイコンを併用することで、色が識別できない場合でも状態が理解できます。また、赤の代わりに青を成功表示に使うことで、P型の人にも明確に「良い状態」が伝わります。
すぐに使える配色のチェックツールやガイドライン
カラーユニバーサルデザインは、専門家でなくても実践できます。便利なツールやガイドラインを活用し、誰でも手軽に配色のチェックや改善を行いましょう。
Adobeの色校正機能
Adobe PhotoshopやIllustratorには、「色校正」という機能が搭載されています。この機能を使うと、P型色覚やD型色覚の方が見た場合に、デザインがどのように見えるかをシミュレートすることができます。これにより、デザイン段階で色覚の多様性に配慮した調整を行うことが可能になります。
【Photoshopの場合】
1.Photoshopでシミュレートしたい画像を開く
2.表示 > 校正設定 > 「P型(1型)色覚」、「D型(2型)色覚」のいずれかを選択
【Illustratorの場合】
1.Illustratorでシミュレートしたい画像を開く
2.表示 > 校正設定 > 「P型(1型)色覚」、「D型(2型)色覚」のいずれかを選択
色のシミュレーションツール
Adobe製品以外にも、Web上で手軽に利用できる色のシミュレーションツールが多数存在します。これらのツールにデザインの画像をアップロードしたり、色コードを入力したりすることで、様々な色覚タイプからの見え方を瞬時に確認できます。デザインの最終チェックや、チーム内での共有にも役立ちます。
- 「Coblis – Color Blindness Simulator」:画像をアップロードするだけで各色覚タイプでの見え方を確認できる無料のWebツールです。登録不要で、JPG、PNG形式に対応しています。
- 「Stark」:FigmaやSketch用のプラグインで、基本機能は無料で使用できます。デザインツール内で直接シミュレーションでき、コントラストチェック機能も備えています。
- 「Spectrum」:Google Chromeの拡張機能で、Webページ全体を様々な色覚タイプで表示確認できます。
これらのツールは、元の色と全く同じに見えるわけではありませんが、「色の見分けにくさ」を体験し、デザインの問題点を発見する上で非常に役立ちます。
行政のカラーユニバーサルデザインガイドライン
各自治体や公的機関が、カラーユニバーサルデザインに関するガイドラインを公開しています。これらのガイドラインは、専門家による知見に基づいて作成されており、非常に信頼性が高い情報源です。特に、東京都が公開している「東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン」は、具体的な事例や推奨配色なども豊富に掲載されており、実践的な参考になります。
カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が提供している「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット ガイドブック」は、色覚の多様性に配慮した配色を検討する際に非常に役立ちます。RGB値やCMYK値が明記されており、デザイン制作の現場でそのまま活用できる点が大きなメリットです。
よくある質問(Q&A)
Q: カラーユニバーサルデザインを導入すると、デザインの自由度が下がりませんか?
A: 制約はありますが、クリエイティビティが失われるわけではありません。むしろ制約があることで、色以外の要素(レイアウト、タイポグラフィ、写真)により注力でき、総合的なデザイン品質が向上することが多いです。実際、AppleやGoogleなどのデザイン先進企業も、アクセシビリティガイドラインに準拠しながら美しいデザインを実現しています。
Q: 既存のブランドカラーが赤と緑の場合、どう対処すべきですか?
A: ブランドカラー自体を変更する必要はありません。重要なのは、色だけに情報を依存させないことです。例えば、以下のような工夫が考えられます。
- 明度や彩度で差をつける:赤と緑の組み合わせでも、明度や彩度を大きく変えることで、視認性を向上させることができます。
- 色以外の要素を併用する:アイコン、テキスト、パターン、線の種類などを併用し、色以外の情報で区別できるようにします。
- アクセントカラーの導入:赤と緑を基調としつつ、アクセントカラーとして青や黄色など、色覚の多様性を持つ方にも識別しやすい色を効果的に取り入れることも有効です。
ブランドイメージを維持しつつ、アクセシビリティを高めるためのバランスを見つけることが重要です。
Q: 小規模なWebサイトでも、CUDは必要ですか?
A: Webサイトの規模に関わらず、CUDは重要です。小規模なWebサイトであっても、そこに訪れるユーザーは多様な色覚を持っています。誰もが快適に情報を得られるように配慮することは、ユーザーエクスペリエンスの向上に直結し、結果としてサイトの信頼性や評価を高めることに繋がるのです。特に、情報伝達が主な目的であるWebサイトであれば、その重要性はさらに増します。どんな規模のサイトでも、ユーザーへの配慮はデザインの基本であるべきです。
Q. すべての色覚タイプに100%対応することは可能ですか?
A: 現在の技術や科学では、色覚特性がある人がどのように見えているのか、完全に理解することができません。そのため、残念ながら、すべての人に100%完璧に対応するデザインを作成することが難しいというのが正直なところです。色覚の多様性は非常に複雑であり、個々の見え方は多岐にわたります。
しかし、カラーユニバーサルデザインの目的は、完璧な対応を目指すことではなく、「より多くの人が情報を正確に、快適に得られるようにする」ことです。今回ご紹介したような基本的な原則とツールを活用することで、Webサイトのアクセシビリティを大幅に向上させ、より多くのユーザーに寄り添ったデザインを提供することが可能になります。今、できる範囲での最適解を求めて、常に改善を続ける姿勢が重要です。
まとめ
カラーユニバーサルデザインは、一部の特別な誰かのための配慮ではありません。Webサイトを訪れる「すべての人」に向けた、おもてなしの心とも言えるデザインアプローチです。
本記事で紹介した5つのポイントを意識するだけで、Webサイトのアクセシビリティとユーザビリティを飛躍的に向上させることができます。
- 特定の色の組み合わせを避ける
- 明るさや鮮やかさで差をつける
- コントラスト比を確保する
- 色数を絞る
- 色以外の要素を活用する
まずは、コントラストチェックツールで自社サイトを確認する、といった小さな一歩から始めてみてください。すべての人に伝わるデザインは、結果としてユーザーの満足度を高め、ビジネスの機会損失を防ぐことに繋がっていきます。








